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近松賞選考結果

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第6回「近松賞」選考結果

第6回近松賞受賞作   『砂壁の部屋』   上原 裕美

第6回「近松賞」は2013(平成25)年5月1日から7月1日の締切までに、海外2カ国ほか全国32都道府県から174作品の応募がありました。1次審査で26作品、続く2次審査で最終候補作品として10作品を選出し、平成26年2月24日(月)午後4時から4名の選考委員による選考委員会を当センターで行った結果、近松賞を決定しました。
受賞作品には、2014(平成26)年3月27日(木)に行われる表彰式で、正賞と副賞200万円(出版権料、上演料、税含)が贈呈されます。また、4月に選評を掲載した冊子を発行、2015(平成27)年中に上演を行う予定です。

第6回「近松賞」受賞者

上原 裕美(うえはら ひろみ)さん

近松賞受賞者
上原 裕美   (うえはら ひろみ)さん
〈 ペンネーム / 大阪府大阪市在住 〉
近松賞受賞作
『砂壁の部屋』(すなかべのへや)

『砂壁の部屋』 あらすじ

何をしても上手くいかないユカミ―。
小学校2年生の時に突然引越しなければいけなくなった。
そこは決して健全とは言い難い人間関係で成り立っている花街であった。
その街であっ金(きん)と呼ばれる少年と出会い、彼の秘密の唇から出てくる色々な話のお陰で、家族がいない時も寂しい思いをすることはなかった。
中2の春、太平洋で起きた大きな地震と同時に、彼は突然いなくなった。
初恋の人に置き去りにされ、部活で活躍する夢も終わり、何をすればいいのかわからなくなり、それは高校へ進学しても変わらず、目的も目標もなく、虚無感を感じるつまらない日々に空しさを感じていた。
そんな毎日において、ライブハウスに通い踊り狂うことが、自分が自分でいられる唯一の時間であった。その時出会ったパティスミスのフレデリックという曲、その曲でダンスを踊りたい!もう一度新たな目標へと少しずつ歩んでいった。
しかし、バイトで知り合う友達の影響で、再び掴んだ目標も薄れ、次第にレッスンもサボるようになり、またダラダラした生活の繰り返すことになっていた。そんな中、エスコートサービスを商売とし、お腹に傷を持つアキラという男を慕い、今を懸命に生きる女友達と出会う。
あっ金(きん)のいなくなった大地震からしばらく経ったある日、フィリピンマニラ地震が起き、奇しくもその地震の記事であっ金(きん)の訃報を知る事になった。人生を悔いのない様にやり直す時だと気づいたが、そこにはもう自分の居場所はなかった。
フィリピンマニラ地震以降、世の中が不安定な時代へと陥っていく中、ユカミは世間を批判する風刺劇の様な紙芝居を始めた。
「ニワトリが言ってるみたいに聞こえる」というセリフが人気となるが、やがてその世情を激しく批判する姿は警察に目をつけられる事になった。
ユカミが連行される時、発せられた言葉。
その言葉は何処まで届くのだろうか―。

上原 裕美さん受賞の言葉

近松賞に選んでいただき、ありがとうございます! 嬉しい。ちょっとかなり嬉しいです。
選考に携わった関係者の皆様をはじめ、今までの演劇活動を応援していただいた全ての皆様のお陰と大変感謝しております。ありがとうございました。
また、このご時世にこんな素晴らしい戯曲賞を継続して取り組み、成熟した大人の魅力であるセクシーな感性をお持ちの尼崎市には大変感激しております。きっと演劇は人間に“とっても大事なもの”であると尼崎の土地が感じておられるのでしょうね。

日頃は仕事を持ちながら、岬千鶴 (ピンクのレオタード)いう芸名で小劇場の役者をし、また趣味で小説を数本書いております。演劇という舞台芸術の世界と物語を創作する小説の世界が私にとっては、生活の一部になっており、そうした中で自分の作品を戯曲にしてみようと思い立ち、初めて本格的に戯曲の制作に取り組んでみました。世の中、哀しい現実が続きますが、そうじゃなくせる可能性もあるのですから、信じて生きていくことがとても大切なことだとこの作品を通じて表現したいと思い、そして生まれた作品がこの「砂壁の部屋」でした。
特に戯曲制作に関して指導などを受けた経験はありませんが、役者として関わらせていただいた現場で演出家、作家さんが作品に立ち向かっていく姿勢や共演者、スタッフ皆様の素晴らしい感性が私に良いキャリアとして蓄積され、作品を書き上げていく原動力になったものと思います。

今作品が、舞台上演されるということですから、尼崎市と尼崎市総合文化センターの皆様には大変お世話になります。私自身も是非公演を成功させたいと願っておりますので、引き続きご支援とご協力をよろしくお願いいたします。「砂壁の部屋」が上演されることを心待ちにするとともに、上演の際には役者として参加できるチャンスをいただければと思います。よろしくお願いいたします。

第6回「近松賞」選考委員コメント(敬称略、50音順)

岩松 了(劇作家、演出家、俳優、映画監督)

まずは大賞が出せたことを喜びたい。私自身は『涅槃に』を推したが結果は『砂壁の部屋』になった。詳しいことは選評に書くとして、『砂壁の部屋』は今里新地周辺の、方言を駆使して、世間からこぼれ落ちる若者の生態をいきいきと描き出していた。そしてそこに男女の恋話がからみ。これは近松の世界に通じるのではないかという松岡和子さんの意見に、なるほどと思った。
あまりにスケッチぽくないか、ということに対してもそこに"あっ金"という男の存在があることで、一貫した何かがあると、これも松岡さんの指摘。ともあれ、上原裕美さん、おめでとうございます!

深津 篤史(劇作家、演出家)

少なくとも私には街が見えた。他の作品にはない、生活を伴った街の風景が見えた。ぼんやりとではあるが風が吹き抜けるのを感じた。ここが私の貴方の作品を押す理由です。
たしかに行き当たりばっかりな所や、計算の足りない所は見受けられますが、それをさっぴいても貴方の作品の生活のリズム感が勝っていました。ただ、難点を言えばタイトルはもう一考された方が良いです。

松岡 和子(翻訳家)

僅差でした、鼻の差でした。受賞作の『砂壁の部屋』と『涅槃に』です。双方とも舞台を見たいと思わせる状況展開の意外性と、余白の含蓄、よい台詞などをそなえています。『砂壁の部屋』は一見スケッチの連なりに見えますが、ギリギリを生きる女たちが共有する「あっ金」と呼ばれる男性への思慕がコマをつなぐ横糸として有効。樋口一葉の『たけくらべ』を連想させるいまの男女の因縁が、近松賞にふさわしく思われました。

水落 潔(演劇評論家)

私は、別の作品を推したが「砂壁の部屋」の受賞に異論はない。両親の事業の失敗で引越しをし、転校した学校で初恋に破れ、自暴自棄な高校生活を送る主人公ユカミの人生を描いた作だが、その描写に不思議なリアリティがあり、とくに知り合いになった売春婦との会話に、今の著者の人間像が表現されていた。閉塞感にさいなまれながら時代と折り合いをつけて生きていくしかない現代の姿とそれへの疑問が描かれた作品であったと思う。

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