第1回「近松賞」選考結果
第1回近松賞受賞作
該当者なし
近松賞優秀賞
『いつも煙が目にしみる』

『十六夜 -いざよい-』
菱田 信也

宮森 さつき
 第1回「近松賞」(正式名 近松門左衛門賞)(主催:尼崎市)は平成13年5月1日から6月30日まで、現代演劇の戯曲募集を行いましたところ、海外を含め、全国29都道府県から198名、208作品のご応募がありました。
 これは、未発表・未上演の戯曲賞では日本でトップクラスの応募数と思っております。
 応募作品を12人の予備審査員が1作品を2人で読む方法で、1次予備審査で23作品に絞り込みました。そして、23作品を更に今まで読んでいない別の人に同じく1作品を2人で読む方法で2次予備審査で11作品を選出し、全作品を10月上旬に選考委員さんに送付。
 11月1日(木)午後2時30分から、太田省吾氏、栗山民也氏、別役実氏、水落潔氏、宮田慶子氏(50音順)の5名の選考委員による選考委員会を行った結果、「11作品、全体のレベルは高かった」と一致した感想であったが「近松賞」にはもう一つ大きな期待があり、そこには届かなかったということで「該当作品」なしという結果になりました。
 しかしながら、選考委員会では、最後まで残った菱田信也さん(神戸市在住)の「いつも煙が目にしみる」と、宮森さつきさん(東京都目黒区在住)の「十六夜−いざよい−」の2作品を近松賞優秀賞として選出し、受賞者には、賞状と副賞50万円(出版権料・税含)を贈呈することが決まりました。また、平成14年3月に選評を掲載した冊子を2,000冊発行し、全国の演劇関係者等に配布する予定です。
優秀賞受賞者
菱田 信也さん
(ひしだ しんや)
〈兵庫県神戸市在住〉


優秀賞受賞作
『いつも煙が目にしみる』
優秀賞受賞者
宮森 さつきさん
(みやもり さつき)
〈東京都目黒区在住〉


優秀賞受賞作
『十六夜 -いざよい-』
『いつも煙が目にしみる』 あらすじ

 阪神大震災から約1年後。新聞社社会部の記者・花村は、「震災離婚」に関する取材のため、郊外に位置する仮設住宅の一室に一人で住む、34歳の女性・容子の元を訪れる。
 初対面の二人は、お互いの距離を探り合いながら、静かな時間をやり過ごして行く。

 終戦直後の日本。混乱する社会の中で、現れては消えていく、底辺に生きた無名の女たち。花村の祖父にあたる、カストリ雑誌の一記者の取材に答えながら、カオスの時代に生きる生身の姿を、彼女たちは赤裸々に見せ付けていく。

 50年の月日の違い。しかしやがて、離れた二つの時代と、それぞれを生きた遠い人々が静かに重なり合い、SEXの形を具現化しながら、「生きていく」意味を問うという永遠のテーマを追い掛けていく。
菱田 信也さん受賞の言葉

 私が卒業しました英知大学は、近松翁が眠る墓所のすぐ近くに位置しております。
 学生時代、何度か講義を抜け出して近松公園を散策した思い出が、受賞の報をいただいた時に蘇りました。
 あれから十数年。気がつけば、グルッと一回りして帰ってきたような思いがいたします。
 ここに来るまでの間、支えて下さった皆様に御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
『十六夜 -いざよい-』 あらすじ

十六夜。
 孝一がアパートへ帰ると、暗い部屋の窓辺で、女が一人ぼんやりと月を見上げていた。
見知らぬ女の出現に当惑を隠せない孝一だが、そんな孝一をよそに女は一言も口を開こうとはしない。弟を担ごうとする姉・道子の悪戯だと思った孝一は、折り良く掛かって来た道子からの電話で事実を確認しようとするが、その隙に女の姿は忽然と消えてしまう。

 女と入れ違いにやって来た恋人・由佳に状況を説明してみるものの、掴み所のない話は要領を得ないばかり。そこへ先程の女がまた現れるが、由佳には女の姿が見えない。やっと重い口を開いた女は孝一に自分が十年以上も前に死んだ道子の同級生・奈々だと名乗る。

 見えないものに向かって話しかける孝一を心配する由佳だが、女が手を取ると、突然その姿が見えるようになる。混乱しつつも、その女が奈々の幽霊であり、これからやって来る道子に会いに来たのだと信じ始める二人。
 しかし、会いに来たはずの道子の目には、奈々の姿が映らない。それが弟達の悪戯だと思った道子は調子を合わせ、奈々の姿が見えている振りをする。

 道子の会社の後輩・水島も加わり、一日遅れの月見の会は始まるが、いつまで経っても悪ふざけを止めようとしない弟達に腹を立て、道子は奈々の幽霊など出るわけがない、自分に会いにくる理由などないと言い放つ。
 水島にも奈々の姿は目撃されるが、奈々は最後まで、道子の前だけには決して姿を現そうとはしなかった。

 孝一に今日この日に現れた理由を問われた奈々は、月がきれいだったからだと答える。そして、奈々が死の前日に道子に宛てた手紙には、道子との十六夜の思い出が綴られていた。
宮森 さつきさん受賞の言葉

 力不足で「近松賞」には届かなかったものの、作品を評価していただいたことは、戯曲を書き始めてまだ日の浅い私にとって、大変励みになります。
 所属劇団もなく、戯曲を書くことはひたすら怠惰な自分との闘いですが、いつの日か、「近松賞」に相応しい戯曲が書ける日を目指して、今後も書きつづけて行きたいと思います。
 ありがとうございました。
選評 -受賞作について  選考委員 太田省吾

平成13年11月2日、尼崎市内のホテルニューアルカイックでの記者発表より

 選考は応募作品208作品から予備審査で残った11作品を選考委員それぞれの評価を○△×の三段階の点を入れるところからはじめました。さまざま、傾向の異なる作品でしたので、票は割れ大多数が集中する作品はなく、全員が×をつけた作品も2作品だけでした。
 委員が「他の賞と比べて全体のレベルは高かった」と一致した感想をいいあいましたが、たしかに平均点は高かったように思われました。つぎに点の低いほうから、評価・感想を述べ合い、受賞作へ向けて作品がしぼりこまれていきました。
 最終段階に残ったのは、上記2作品でした。

□『いつも煙が目にしみる』は一方では震災後仮設住宅に一人住まいする女と、彼女にインタビューする新聞記者の関係の進行を描き、もう一方では、戦後の社会をたくましく生きるさまざまな女たちへの雑誌記者のインタビューへの応答が交互に描かれた作品でした。
 両場面とも、女たちのホンネが一筋縄でない現実味が力強いと高く評価され、作者の書きたい題材への熱が作品の力として現れていると好感を得ました。

□また、『十六夜−いざよい−』は、十六夜に、ある男のところへ月見に集まった男と女の日常を、特別の事件を起こすことなく、淡彩にそして感度よく描いていることが高く評価されました。

 この2作のどちらを「近松賞」に、という最終論議を行いました。そこでは、「近松賞」の目標としてかかげたところ―――
 「近松作品が発揮した演劇の力強さ、深さ、それを生んだ人間把握の新鮮さと現代的連関を感じさせる作品」に照らして、小ぶりであり、またいくつかの欠点には、それを拭えない後味が残り、大賞「近松賞」受賞には選考委員全員二の足を踏んだのでした。良い作品ではあるが「近松賞」には、もう一つ大きな期待があり、そこにはとどかないと判断しました。
 残念ではありましたが、それを結論とし、大賞「近松賞」は次回へということとなりました。。

〈近松賞選考委員〉(敬称略、50音順)
 太田 省吾 (劇作家、演出家)
 栗山 民也 (演出家)
 別役 実 (劇作家)
 水落 潔 (演劇評論家)
 宮田 慶子 (演出家)


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