第5回「近松賞」選考結果
 第5回「近松賞」は2009(平成21)年5月1日から7月1日の締切までに、海外2カ国ほか全国35都道府県から246作品の応募がありました。1次審査で35作品、続く2次審査で最終候補作品として9作品を選出し、11月20日(金)午前10時30分から新国立劇場(東京)で選考委員会を行った結果、「近松賞及び優秀賞 該当なし」、という結果になりました。
最終候補作品一覧
作品名
氏 名
都道府県
ちゃぶだいがえし
吉村 健二
埼玉県
回転鼻眼鏡 長谷川 公次郎 愛知県
『CASE3〜よく学ぶ遺伝子〜』 森 馨由 長崎県
軍医・森林太郎の犯罪 島田 九輔 東京都
運転手 平塚 直隆 愛知県
「ワニを探して」 森 直也 神奈川県
帰島 三谷 るみ 東京都
『レッツ・ゴー・お礼参り』 木戸 惠子 愛知県
「アトム」 冨田 礼介 神奈川県
(以上9作品、受付番号順)
第5回「近松賞」選考委員コメント(敬称略、50音順)

岩松 了(劇作家、演出家、俳優、映画監督)

 私は『CASE3〜』と『運転手』を、いろいろの欠点はありながらも戯曲としての可能性を感じ、推す所存であったが、選考会ではむしろ欠点の方が問題になった。前者は幽霊の存在に曖昧なものがありそれが作品全体を脆弱なものにしているし、後者は、最後に運転手と女2を出会わせ、それぞれの夫と妻に対する言い分を罵る意味勝手に主張するのだが、果してそれだけでいいのかと思わざるをえない。他に『森林太郎の犯罪』にも興味を抱いたが、結局「あ、そういうこと」の感想で終わってしまう。森林太郎が、その問題を抱えながら生きてゆく姿が見たかった。そこには、それが特殊な犯罪にとどまらず、人が生きてゆく普遍があるように思えるのだ。

栗山 民也(演出家)

「これを描くんだ」という書き手の必然

 どんな作品を読み始めるときにも、まず書き手が最初にその作品を書こうとしたときの動機が何であったのかを、探ってみる。その一つの戯曲作品の根っこであるものを、何故に書き手が選択し、ペンをとったか。そして、その根っこからどんな手法で登場人物たちに言葉と行動を与え、全体の骨格を組み立てたのか。たとえ物語のなかに多少の綻びが見えようとも、これを描くのだといったその書き手の絶対的な必然が、劇作品に熱く動く真実の力を与えるだろう。そんなことを考えながら読んだ9本の最終候補作の中に、強く心を動かされた作品はなかった。次回を、期待したい。

別役 実(劇作家)

 今回私は残念ながら、受賞作を選ぶことが出来なかった。設定としては、「運転手」や「お礼参り」や「よく学ぶ遺伝子」など、興味をひかれるものがあったのであるが、それぞれ展開において、問題があったようである。出来上ったアイデアを、戯曲としてどう仕立てあげるのかという手法を、それぞれ身につける必要があったようである。「森林太郎の犯罪」も、力作であり資料をよく調べあげているが、演劇にするための構図が出来ていなかった。それぞれ、演劇というものの現場感覚を学ぶ必要があるだろう。

松岡 和子(翻訳家、演劇評論家)

 明治期を背景とする2本のうち『軍医・森林太郎の犯罪』は多くの資料を渉猟した力作だが、整理が不十分なうえ、架空の審問の立脚点がないのが問題。『帰島』は登場人物の因縁の絡み合いが過剰で分かりにくい。7本の現代劇の中では『ちゃぶだいがえし』の、限定された時空を軸に、今の社会を覆う食や家族の歪んだ状況を描いたことを評価するが、戯画化のせいで人物が記号的になったのが惜しまれる。総じて台詞は達者だが、作品として突出したものには出会えなかった。近い将来、近松賞とともに勢いのある再出発を望む。

水落 潔(演劇評論家)

 残念ながら受賞作はなかった。今回は全般的にレベルが低かったと思う。しかし、未完成ながら印象に残った作品はある。三谷るみ氏の「帰島」は明治初期、八丈島へ向かう船を舞台に、様々な過去を持つ人々の姿を描いた力作だったが、話と因果関係を詰めこみ過ぎた。森馨由氏の「CASE3」は主役の美奈とそれに対する浜子はよく描けていたが、幽霊の存在と役割が不消化であった。台詞はうまい。島田九輔氏の「森林太郎の犯罪」は力作でよく調べてあるが、論文の引用が多すぎて、上演戯曲としては選び難い。

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